白い山、白いカーテン、三毛の猫。

前の家は山と山に挟まれた小谷のような場所にあって、郷里から娘の様子を見に来た父は「山が迫ってくるようやね」と言った。

年末に引っ越し、新しく選んだ家はアパートの最上階(と言ってもエレベーター無しのこじんまりとしたアパートだけれど)。川と、田んぼと、家家の、その先に眺める山は、麓で見るそれとは違って見える。穏やかというか。

山から離れて、離れられなくて、この部屋を選んだ。

内覧した時、間取りがどうたらトイレはどうたら不動産屋の従業員の営業トークは意味をなさず、空っぽの部屋で所在無く響いて居た。私はただこの窓からの景色を見て、「ここなら住める」と確信した。

遠くなったけれど、毎日、窓の外を眺めるたびに近くに感じる。前の家に居た時よりも近くに感じることさえある。借景、とでも言おうか。この部屋の主にしか見れない、特別な景色なのだ。


今日は仕事が休みなのでゆっくり起きて、昼過ぎ、歩いて古本屋に向かう。

カウンターで店主が、「今年は山雪みたいですね」と言っていた。お店を営んでいる人からしたら、雪は困ったもの。町のこっちは降らなくてありがたい、と。古本屋は器のお直し(金継ぎ)もしていて、欠けてしまったマグカップを預けて、古本を一冊買って出た。帰り道、歩きながら、前の家のことを思った。山雪だから、今日もあの家は、真っ白だろう。


手芸店で布を買って、カーテンを繕った。
あの景色にあう布、夕焼けや朝日を待つあの美しい光を邪魔しない、布。

散々悩んだ末に決めたのは無地の白い布だった。




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